私はいつか眼鏡をこわしたことがあった。生あいにく憎眼鏡を買う金がなかったのに、机に向かわなければならない仕事があった。顔を紙のすぐ近くまで下げて行くと、成程書いた文字は見える。又、その上下左右の一団の文字だけは、そこだけ望遠鏡の中のように確かに見えるのである。けれどもそういう状態では小説を書くことができない。
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